WCPT2025 TOKYO
- 高﨑博司
- 5月31日
- 読了時間: 4分
更新日:6月1日

5月29-31日は東京国際フォーラムにて、理学療法最大の国際学会であるWCPTが約30年ぶりに日本で開催されました。今回のWCPTは私にとって、忘れることができない特別な学会となりました。なんと、WCPT側からディスカッションセッションで出演依頼が来たのです。WCPTは理学療法のすべての分野が集まるものです。つまり、私が専門とする運動器理学療法のセッション自体が、WCPTでは限定されており、その数少ない枠の中で国際学会から依頼が来るというのは非常に名誉なことだからです(サッカーで言えば、J1の一選手が世界選抜メンバーとして急に声をかけられたようなものです)。
ディスカッションセッションとは、スライドもなく、シナリオもなく、全てがアドリブで行われる最高難易度のものです。もちろん、全てが英語です。また、参加者も話に入ってくるので、ゆっくり明確に話してくれる人だけではありません。また、質問も的を得ない場合も多々あります。そして何より、テーマが「Biopsychosocial and beyond」と、哲学的で、かつ、私が今まで持ち合わせていた以上の深い知識が必要なものでした。つまり、今回のWCPTでの登壇は、今まで私が経験してきた何段階も上のレベルを要求される、最高難易度のタスクでした。
この話が決まってから、他の研究にもあまり身が入らず、そのことを友人に話すと、まさに初恋状態じゃないかと・・・。確かに!初恋の時は、こんな感じで夜も眠れずドキドキしたものです。そう考えると、苦しい感じが懐かしく愛しいものに思えました。毎日のように関連論文を読み、読み返し準備をしました。しかし、それだけで対応できるタスクではありません。結局、開催前夜に、今までやってきた、私しか持っていない研究知見で勝負するしかないと覚悟が決まりました。日本語であれば、伝えたい/議論したいという楽しさ100%で参加できたでしょうが、英語についていけるか?そして、即座に的確に英語で返せるか?という不安で、楽しさ60%不安40%での参加でした。
当日始まってみると、なんと、3名の講師と2名の司会で1時間雑談する予定が、司会と講師が1名ずつ現れず、単純計算で私が30分話さなければならないことに・・・!!そして始まってしまったら、あとはやるしかない!他のことを考えた瞬間に話に置いていかれます。正直うまく英語で表現できないことが多々ありました。しかし、自分以上の知識を持つ人から指摘されるようなことや、あいつダメだと思われることはなく、司会・共演者、そして、参加者の皆様のおかげで無事セッションを終えることができました。共演者はその領域のトップ研究者ですが、その人からも新たな示唆とアイデアが得られたと感謝の言葉をいただけました。講演の後も複数人から目から鱗の話だったと感想をいただき、色々と質問もいただけました。うまくは英語で話せませんでしたが、あれが自分の今の実力だなとも思いますし、後悔はありません。私が話したことで、誰かの役に立ったのならば本望です。
今回のWCPTでは、いつも通り、新たな国際共同研究のタネを撒けましたが、なんといっても最大の収穫は、このディスカッションセッションという最高難易度のタスクを与えられ、それに向けて知の統合と整理ができたことです。学会後、友人の超有名な研究者にこの話をしたところ、私が国際学会で招待講演はあまり無かったことに驚かれ、英語が不得意だからというだけの理由でそのような舞台に呼ばれないのは悔しいかと問われました。しかし、全く悔しいという感情は湧きませんでした。英語のハンデがあってもそれを超えるほどの実力があればいいだけの話で、まだ私の力はそこまで至ってないだけだと思うのです。そのレベルを目指すことだけを考えて、これからの残された時間を進んでいこうと思います。『のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう』まさに、その気持ちです。

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